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ちょっと不思議な法律の話(交通事故の賠償金の相殺について)
車同士の交通事故では、両方の車の修理費用、それぞれの運転手の方の治療費などを、誰がどのように負担するのかで争いになることが少なくありません。
そして、多くの事故では、お互いが相手方に対して修理代や治療費の支払い義務を負うことになります。
交差点で出会い頭に衝突したAさんとBさんの事故で言えば、例えばこんな感じです。
①AさんがBさんに払う義務のある車の修理代:40万円
②BさんがAさんに払う義務のある車の修理代 25万円
③AさんがBさんに払う義務のある治療費:20万円
④BさんがAさんに払う義務のある治療費:35万円
これらの費用について、全部まとめて相殺(差引計算)をすれば、Aさん→Bさんへの支払い額と、Bさん→Aさんへの支払額は同じ60万円ずつですので、実際のお金の支払いはAさん・Bさんともしなくて良さそうに思えます。
けれども、民法では、修理代は相殺していいけれども、治療費は相殺してはダメ、という規定があります。
そのため、上の例で言えば、①と②は差引計算できますが、③と④は実際に支払いを行わなければなりません。
結果として、AさんはBさんに35万円(修理代15万円+治療費20万円)を、BさんもAさんに35万円(治療費)を払わないといけない、ということになります。
このような法制度になっているのは、もし、治療費同士を相殺できてしまうと、経済的に困窮している人が治療費を受け取れずに治療が受けられなくなってしまうので、それを避けるためです。
実際の事故であれば、ほとんどの場合に治療費は保険会社が支払ってくれますので上記のような心配は無いのですが、法律とは用心深く作られている(そのせいで一見すると不思議に思えることもある)というお話でした。
こたけひまわリ法律事務所
弁護士 小坂塁