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いわゆるLGBT理解増進法と事業主の対応
1「LGBT理解増進法」って、なに?
正式な名称は「性的指向及びジェンダーアイデンテイティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」です。
本通信で、やたら長い名称の法律ばかり話題にしている気がしますが、偶然です。法の目的は、その名称でも明らかなとおり「性的指向及びジェンダーアイデンテイティの多様性に寛容な社会の実現に資すること」です(第1条)。
2 事業主の「努力」?
(1)本法には、国や自治体の役割のほか、性的指向及びジェンダーアイデンテイティの多様性に関する労働者(被用者)の理解増進に「自ら努める」よう求める条項があります(第6条)。
要は、国や自治体の施策を待つのではなく、積極的に対応しましょう、ということです。
あわせて、労働者(被用者)に対し、性的指向及びジェンダーアイデンテイティの多様性に関する理解を深めるための「情報の提供」、「研修の実施」、「普及啓発」、「就業環境に関する相談体制の整備」など必要な措置を講ずるよう「努めるものとする」と定められています(第I0条第2項)。
(2) ところで、これら条文はいずれも、「…しなければならない」ではなく、「努める」となっています。
これはいわゆる「努力目標」であり、罰則のある「法的な義務」とまではされていない、ということです。
3 経産省に関する最高裁判決
(1)しかし、今年の7月II日、最高裁が注目すべき判決を下しました。生物学的な性別が男性で性同一性障害の診断を受けているトランスジェンダー(性自認が女性)の国家公務員(一般職・経産省所属)がした、職場の女性トイレの使用等を内容とする行政措置の要求を斥けた人事院の判定が違法としたものです。
(2) あくまで事例判断ですし、「公共施設」では異なった配慮、判断も考えられます。
他方、本判決理由中は明言されていませんが、補足意見をみると、一審判決同様、「個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができること」は「重要な法益」として、「その判断においても十分に尊重されるべき」と言及しているものがあります。
この点は、国家公務員に限らず、すべての人に当てはまります。
(3) また、本件は、「女性トイレの利用」、つまり「男女別」で利用されることが想定されている施設に関する問題であるため、生物学的にも性自認としても女性である方々(女性トイレを使用することが想定されている人たち)の利益にも配慮する必要がありますが、そのような他者の利益に配慮する必要がない(乏しい)、例えば本人の服装等の問題の場合は、どうでしょうか…?
(4)LGBT理解増進法が施行された今、本判決は決して「対岸の出来事」なく、「自社だったらどうするか?」という観点で考えてみる必要がありそうです。
(了)
こたけひまわリ法律事務所
弁護士 小山明輝